奈良地方裁判所葛城支部 昭和25年(ワ)8号 判決
原告 池口治郎
被告 巽篤三郎
一、主 文
被告は原告に対し金三万四千円及内金三万円に対する昭和二十五年二月二十五日から内金四千円に対する同年七月一日からいずれも年五分に相当する各金員を支拂わねばならない。
原告其の余の請求は之を棄却する。
訴訟費用は之を五分しその一を原告の負担としその余を被告の負担とする。
本判決は原告勝訴の部分に限り原告に於て執行前担保として金一万一千四百円を供託するときは仮に之を執行することが出來る。
二、事 実
原告は、被告は原告に対し金四万四千円及内金四万円に対しては支拂命令送達の翌日から、内金四千円に対しては請求拡張の申立書送達の翌日からいずれも年五分の割合による各金員を支拂え、訴訟費用は被告の負担とする、との判決及担保を條件とする仮執行の宣言を求め、其の請求原因として、被告は昭和二十三年三月十日奈良地方檢察庁から奈良地方裁判所に対し「被告は奈良縣織物協同組合の書記であるが昭和二十二年十月末日頃前山電機工業株式会社々長前山誠逸から蚊張生地の販賣方を依頼せられ、第一、同年十一月二十六日頃森房夫と共謀の上奈良市西木辻町三百六番地の三蚊張株式会社で、森本音吉に対し指定生産資材である麻織蚊張生地八十四ヤールもの六百反を割当証明書と引換えず代金七十六万八千円で販賣し、第二、同年十一月末頃前同所で、森本音吉に対し前同様蚊張生地二百八十二反を割当証明書と引換えずに代金三十四万四千八百円で販賣したものである。」との公訴事実によつて臨時物資需給調整法違反事件として公訴を提起せられ、右裁判所に於て審理を受けた結果同年五月二十一日大体同一の事実を認定せられ懲役一年六月及罰金十万円に処せられたので、即日大阪高等裁判所に控訴の申立をした上同年五月二十六日弁護士である訴外辻中榮太郎を、次いで同年七月二十五日弁護士である原告を前記控訴事件の弁護人として選任し、これが弁護の委任をしたので原告は被告の爲めに弁護の任に当つたのであるが、大阪高等裁判所に於ては同年十一月十八日第一回公判開廷後昭和二十四年十月二十四日迄の間に十回の公判期日を終て愼重な審理を遂げた結果同年十一月七日同裁判所で「被告人を懲役六月に処する。但し本裁判確定の日から一年間右刑の執行を猶予する。」旨の判決の言渡があり該判決は同月十二日確定したのである。而して原告は前記訴訟委任を受けるに当り着手金として金五千円を受取つたが、一審記録により被告が主犯として認定されているが主犯たる前記前山誠逸が巧みに起訴を免れていることを発見したので、被告に対し右前山を告発して主犯の認定を受けなければ被告を從犯として刑の減軽を受けることは不可能であることを告げ、從て人を告発する等余り好ましからぬ仕事迄しなければならない事件であるから、着手金は原告辻中弁護士と同額でもよいが万一これが爲め減刑され執行猶予の判決を受けることがあれば報酬は金四、五万円は出してもらいたいと述べ、被告も執行猶予になれば充分金四、五万円の價値があるから支拂う旨口約したのみならず、大阪迄出張せねばならぬから日当旅費等は別に入用である事を告げこれまた被告の承認を得たので、原告は直ちに前記前山の告発に着手し告発状の原文を原告自ら作成し被告の名に於て提出することゝなり、特に原告を同道し昭和二十三年十二月十四日大阪に出張し大阪地方檢察庁宛に提出した外、昭和二十三年十二月十四日の第二回公判期日、昭和二十四年四月八日の第四回公判期日、同年五月二日の第五回公判期日、同年六月十三日の第六回公判期日、同年十月二十四日の第十回公判期日には大阪へ出張し公判に立会し、同年九月七日の第九回公判期日には被告が病気の爲め出廷することが出來なかつたので、被告の診断書を携え期日延期を求める爲め大阪え出張し前記裁判所に出頭し、被告の爲め主犯を前山と認定されることに全力を挙げ前山についていた小田成就弁護士を証人に引出す外前山自体をも証人として引出し、遂に第一審の記録上主犯として現われていなかつた前山を主犯として顕現せしめ、被告が実質上幇助者であつた事実を明確にして被告の立場に重大な変化を來たさしめ、これが爲め前叙の如く無罪にも等しい寛大な判決を受けたのであつた。而して右は全く原告の多大な努力によるのであるから、原被告間に前叙のような約束の外報酬額について確定的な契約はなかつたが、原告は弁護士として弁護士法の定むるところによつて当然相当な報酬金の請求を爲し得べきところ其の相当額は原告の所属する奈良弁護士会々則第六條には刑事々件の着手金及報酬金(謝金)は左の標準の範囲内に於て相当にこれを定めるものとする。一、簡易裁判所事件二千円以上五万円以下二、地方裁判所事件三千円以上十万円以下三、上訴事件同上四、公判外の事件二千円以上五万円以下、とあつて本件は右三、に該当する。そして原告は着手金は金五千円を受けた丈であるから謝金は最高九万五千円迄請求出來る訳であるけれども、被告の立場其の他諸般の事情を考慮して右規則の範囲内に於て金四万円を相当と考える。次に原告は本件につき大阪え出張した回数は計六回六日であることは前叙の如くであつて、奈良弁護士会の規定は会員が事務所所在地外に出張する場合は旅費宿泊料の外別に一日につき金千円以上の日当を受けることが出來る事になつて居るのに原告は本件で旅費日当等は一切受けていないのであるから、旅費を含めて最低日当計金六千円を請求すべきであるが、内金二千円は被告が昭和二十四年十二月原告方に持参した金二千円を以て充当し、残金四千円を請求し得るものと考える。仍て原告は被告に対し前記金四万円及右日当金四千円並謝金については支拂命令送達の翌日以降、日当については請求拡張の申立書送達の翌日以降いずれも民事法定年五分に相当する各損害金の支拂を求める爲め本訴に及ぶと陳述し、なお被告は前叙の如く万一刑の執行が猶予されたら報酬として金四、五万円を支拂つてもらい度いとの原告の申出に対しこれを承諾していたものであるが、更に原告が金五万円請求の書面を被告に送つて被告は其の請求書を受領したがその請求に対して何等異議を述べず、却て昨年末には支拂う旨の回答書(甲第一号証)を送つて來たものであつて右報酬の支拂義務を承認していた事は明かであつて、報酬金は四、五万円の内金五万円を承認した事も立証されていると思う。被告は農業を営み田畑合せて四反を耕作し其の資産は甲第二乃至五号証の如くであり近畿日本鉄道株一千八百株は被告の長男圭司名義であるが被告が長男名義で所持しているものであり、甲第四号証の宅地の買收も長男名義を使用している丈で実質は全部被告家の資産であるばかりでなく、これ等以外に昭和二十四年中金二十七万円で山林を買受けている事実もある。即ち被告は終戰後急激に資産を作り村民の反感さえ買つている状態であつて、元警察官であつた関係上弁護士に対する報酬支拂の慣例等の存在弁護士会の会則の有無位は百も承知であり乍ら、原告の努力を無視し感謝の代りに仇を以てするものである。なお本件刑事々件記録の丁数は四〇三丁(被告の控訴申立以後の丁数は二三二丁)である旨附陳し、被告が判決確定後謝礼をする意思であつたという被告の陳述を利益に援用し原告主張に反する被告の答弁事実を悉く否認すると述べた。<立証省略>
被告は原告の請求棄却の判決を求め、答弁として原告主張事実中被告が昭和二十三年三月十日原告主張の罪名によつて其の主張のように起訴せられたこと、被告が同年五月三十一日奈良地方裁判所に於て右罪名の下に大体同一事実を認定せられ懲役一年六月及罰金十万円に処する旨の判決を受けたこと、被告が即日控訴したこと、被告が同年七月二十五日原告に対し右控訴審に於ける弁護を委任したこと、被告が大阪高等裁判所で審理を受けた結果被告を懲役六月に処する但し一年間右刑の執行を猶予する旨の判決を受けたこと、被告が四反位を耕作する農家であること、被告が前山誠逸を告発したこと及本件刑事々件の記録の丁数が原告主張の如くであることはいずれもこれを認めるも爾余の点は否認する。即ち被告は阪元弁護士に依頼して控訴の手続を執つたのであるが、其の後昭和二十三年五月二十六日訴外辻中弁護士に対し弁護料として金五千円を支拂つて同弁護士に控訴審に於ける弁護を依頼していたが、更に同年七月二十五日頃当時已に謄写書類も出來ていたのでそれを持つて原告方に参り原告にも弁護を依頼したのである。而して其の際被告が弁護料は何程で引受けてくれるかを聞いたところ原告は辻中と同額でよいと申したので被告は其の三、四日後金五千円を持参し原告に手渡したばかりでなく、判決後の昭和二十四年十二月謝礼金二千円と品物を原告方に持参し原告の妻に手渡した。なお原告が出廷したのは五回の公判中四回丈で一回は出廷しなかつた。前山誠逸告発に際しても原告は告発の書類提出に立会照会した丈である。以上の如く被告は原告に対し其の要求通り弁護料を支拂い、更に謝礼金迄支拂つた原告は弁護士法及奈良弁護士会会則に基いて弁護料を定め被告よりこれを領收しているのである。原告が更に後日報酬金を請求するのであれば何故依頼したときに更に報酬金の支拂を要することを被告に告げなかつたのか、又契約しなかつたのか、被告は高過ぎると思へば弁護を断りもする筈である。控訴審で刑がかるくなつたとて弁護士の努力ばかりではないと思う。被告の犯罪関係が薄いため寛大な処置を受けたのである。弁護士が報酬を前金で受取つて弁護をする以上努力するのは当然であると思う。一審で弁護を依頼した阪元弁護士にも最初に弁護料を支拂つて後からの報酬金の請求はなかつた。阪元弁護士も同じ法規に基いて報酬金を定め前金で領收している筈である。弱い立場にある被告に対し再度の報酬金を請求するのは不当である。而して仮に再度の請求でないとしても特約がなければ報酬金を請求出來ないと聞いているが本件では特約はなかつた。即ち被告は控訴判決確定後謝礼をする意思であつたので、前記前山と相談の結果原告方に前叙の如く金二千円と品物を添えて持参したが、その前に病気其の他の事情で直ぐ持参出來なかつたので其の事情をはがきで通知して置いたけれども金五万円の請求を承認したわけではない。原告が勝手にはがきで金五万円を請求して來たが、元より約束をしたこともないから返事の限りでもない。其の他特約をした事は毛頭ないのであるから報酬金支拂の義務はないと思う。弁護士ともあろう人が民法第六百四十八條第一項に所謂特約がなければ報酬金の請求が出來ないと言うことは承知している筈と思う。以上の次第であるから原告の請求には應じ難い旨陳述した。<立証省略>
当裁判所は職権を以て証人高椋正次の再訊問、被告本人訊問及其の再訊問をした。
三、理 由
被告が昭和二十三年三月十日奈良地方檢察廳から奈良地方裁判所に対し臨時物資需給調整法違反の罪名の下に原告主張のような公訴事実によつて公訴を提起せられたこと、被告が同年五月十一日同裁判所に於て大体右と同一事実を認定せられて、懲役一年六月及罰金十万円に処せられたが即日控訴し大阪高等裁判所に於て控訴審としての審理を受けた結果、昭和二十四年十一月七日懲役六月に処し一年間右刑の執行を猶予する旨の判決を受け右判決が其の儘確定したこと。及原告が弁護士であつて昭和二十三年五月二十六日前記事件の控訴審に於ける弁護の委任を受け被告の爲め弁護に当つたことは、いずれも本件当事者間に於て爭のないところである。而して証人辻中榮太郎の証言、被告本人訊問の結果いずれも成立に爭のない甲第八乃至十二号証甲第十四号証の各記載及当事者弁論の全趣旨を綜合すると、本件第二審裁判所である大阪高等裁判所に於ける被告弁護の爲めには原告の外辻中榮太郎が弁護人として委仕せられていたのであるが、原告等弁護人は本件に於ける事実上の主犯は前山誠逸であるのに同人が起訴すらされていないところから此の点を強調し、前山が事実上の主犯である事実を控訴の公判廷に於て明らかにし、被告の爲め刑の軽減を受けんとする方針の下に努力し、公判廷に於て小田成就外数名の証人の喚問を求むる外前記前山を大阪高等檢察廳に告発する(告発の手続に関する詳細については証拠がないから不明)等被告の爲め弁護につとめたこと、右裁判所は本件審理の爲め十回の公判期日を指定しているが原告は右弁護の爲めその内実際開廷せられた期日にはほとんど毎回即ち昭和二十三年十二月十四日の第二回公判期日、昭和二十四年四月八日の第四回公判期日、同年五月二日の第五回公判期日、同年六月十三日の第六回公判期日及同年十月二十四日の第十回公判期日に出頭し、昭和二十四年九月七日の公判期日には期日変更を求める爲め大阪へ出張していることを認定し得べく、いずれも成立に爭のない甲第六、七号各証の各記載及これ等と前記公訴事実と対照すると前記第一審裁判所に於て公訴事実に「森房夫と共謀の上」とあるを「森房夫の仲介の下に変更判定せる外大体公訴事実同一の事実を認定したに対し、二審裁判所の判決も事実認定はほとんど変らないが第一審判決に單に前山誠逸から販賣方を頼まれとあるを前山より販賣方をたのまれ同人と共謀の上右会社の爲めと変更判定していることを認定するに十分であるから、被告が第二審に於て前叙のような寛大な処置を受けることを得たのは原告の努力のみによるとは断じがたいが、原告の努力にも負うところ少くなかつたことを推認するに充分である。仍て先ず本件委任に対する報酬金に関する原告の請求について考えて見るに、原告は被告が万一本件で執行猶予の判決を受けることがあれば金四、五万円の報酬を受ける約定があつた旨主張するが、これを肯定するに足る証拠がない。尤も原告が昭和二十四年十月頃被告に対し控訴審の結果が成功すれば四、五万円位の報酬はもらわねばならないと申したことあるは被告本人訊問の結果に徴し明であるが、被告が右申出を承諾したことは原告依用の甲第一号証の記載によつても直ちにこれを首肯し得ないから、右主張は採用し得ない。しかし乍ら弁護士に対して爲した弁護の委任は無報酬で引受ける約定があるとか他に何等かの特別事情のある場合は格別そうでない限り当然有償の契約であるべきであり、特に報酬額を定めなかつた場合にも社会通念に照らし相当な報酬金を授受すべき合意があつたものと推定するを相当とする。今本件についてこれを見るに原告が無報酬で本件弁護の委任を受ける約定でなかつたことは弁論の全趣旨に徴して明白であるから、他に特段の事情のない限り原被告間に右説示のような相当報酬金の授受の合意を推定する外ないから被告はこれが支拂を免れ得ないものといわねばならない。被告はこの点について原告に事件を依頼する前辻中弁護士に対し弁護料として金五千円を前渡して事件を依頼してあつたが、原告に依頼するとき原告に於て弁護料は辻中と同額でよいと申したので、その三、四日後原告の要求通り金五千円を原告に手渡したばかりでなく判決後に謝礼金二千円と品物を原告方に持参して原告の妻に渡してあるから弁護料は支拂済である旨主張するが此の点に関する被告本人訊問の結果は信用出來ない。そして他にこれを肯定するに足る証拠がない。尤も被告が原告に事件を依頼するに当り金五千円を原告に手交したことは原告の認めて爭わないところであるが、証人辻中榮太郎の証言、成立の爭のない甲第一号証の記載並弁論の全趣旨を綜合し、これに証人高椋正次、石黒英雄、辻中榮太郎及坂元不二男の各証言並右高椋の再訊問の際に於ける証言によつて認め得る着手金に関する慣例を参酌すると、右金五千円は着手金の前渡であつたことを認定するに充分であるから、右金五千円授受の事実のみによつては被告の主張は肯定し難く、被告が原告方に金二千円及品物を持参したことも原告に於て自認するが右金品の授受が被告主張のような経緯の下にその主張のような意味で爲されたことは当裁判所の信用しない被告本人訊問の結果を措いて他にこれをみとむるに足る証拠がないから右自認事実のみによつては被告の前記主張を首肯し得ない。被告は又特約がないから報酬金を支拂う義務がないとて抗爭するが、本件に於ては原被告間に相当報酬金を授受する合意のあつたものと推認し得ること前説示の如くである以上これを採用し得ないことは言う迄もない。仍て進んで報酬金の数額について考えて見るに当裁判所は上來説示して來たところによつて既に明である事件の難易、原告の支拂つた努力の程度、其の成果、原告が受任した当時から判決迄の委任事務処理に当つた期間、原告を弁護する爲め他に弁護人として辻中弁護士があつた点、被告が原告に委任当時着手金として金五千円を渡し更に判決後にも原告方へ金二千円と品物を持参して謝礼に行つている点(但し内金二千円については原告に於て後段説示の如く旅費日当として原告が請求し得ると主張する本件旅費日当の金額から控除しているから其の点をも考慮)ばかりでなく当事者間に爭のない本件刑事々件記録の丁数、被告が元警察官であり現在四反位を耕作する農家である事実、被告本人再訊問の結果によつて認め得る被告の過去の経歴いずれも成立の爭のない甲第二、三号証各証並甲第十六号証の各記載によつて認め得る被告の資産の程度(甲第四、五号証は巽圭司名義のものが被告の資産であることを認めるに足る立証がないから被告の資産認定の証拠と做しがたい)、証人高椋正次、石黒英雄の各証言によつて認められる奈良地方に於て弁護士の報酬金に関する当時の準則其の他当事者間に存する諸般の事実を考慮して、被告の原告に支拂うべき報酬金額は金三万円を以て相当であると認定する。然らば被告は原告に対し金三万円及これに対する支拂命令送達の翌日であること記録に徴して明である昭和二十五年二月二十五日以降民事法定年五分に相当する遅延利息を支拂うべき義務ありといわねばならないから、原告の報酬金請求は右認定の義務の範囲に於てのみ正当として認容し爾余を失当として棄却すべきものとする。次に原告の旅費日当の請求について考えて見るに受任者が委任事務を処理するに必要とみとむべき費用を支出したときは、委任者に対し右費用を請求し得るや勿論であるところ証人高椋正次、石黒英雄の各証言(高椋については再訊問の際の証言を含む)右各証言によつて眞正に成立したとみとめる甲第十五号証の記載を綜合すると奈良地方に於て弁護士が事務所々在地外に出張して委任事務を処理したとき右費用として旅費日当を例えば原告が本件委任事務を処理した当時に於て奈良弁護士会所属の弁護士が大阪へ出張して委任事務を処理したとき旅費日当を含めて一日につき当時金千円を委任者より支拂を受ける慣例のあつたことを認定するに充分であつて、原告が大和高田市に事務所を有する奈良弁護士会所属弁護士であることは当裁判所に顕著な事実であるから、他に特段の事情のない限り本件当事者間にも右慣例に從つて右設例の場合旅費日当を含めて一日金千円を授受する合意があつたものと推認することが出來る。而して原告が昭和二十三年十二月十四日より昭和二十四年九月七日迄の間に六回に亘り大阪へ出張して委任事務処理に当つたことは前段認定の如くであり、且原告が被告から旅費日当を全然受けていないことは弁論の全趣旨に徴して明であるから、被告は原告に対し一日金千円の割合で計金六千円を原告に支拂うべき義務ありといわねばならぬ。しからば原告が被告より謝礼金として受けた金二千円はこれに充当し残金四千円及これに対する請求の拡張申立書送達の翌日であること記録に徴して明である昭和二十五年七月一日より民事法定年五分に相当する金員の支拂を求める旅費日当に関する請求は全部相当として認容すべきものとする。
仍て訴訟費用負担について民事訴訟法第八十九條仮執行宣言について同法第百九十六條を適用して主文のように判決する。
(裁判官 三谷武司)